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 突然ですが、私たちが暮らすこの世界、この地球、はたまたこの宇宙は、いつ、どうやってできたのでしょう? 皆さんも一度はこんな疑問を持って、あれやこれやと思いをめぐらせたことがあるのではないでしょうか。

 この普遍的な疑問にたいして古今東西の様々な人々……宗教家や哲学者、科学者など……が時には想像を膨らませ、時には頭脳を凝らして解明し、説明しようとしてきました。しかしそれら先人の試みは、どれもいまだに、明快な答えを私たちに示すことはできていませんし、どれも難解すぎて私たちの理解に及びません。

 古代の人々はこの疑問を天地創造の神話で説明しようとしました。神話は世界各地でさまざまに語られていますが、複数の神話に非常に似通ったモチーフが現れることがあ
ります。世界の始まりは混沌として描かれ、天地創造神話で一番最初のキャラクターとして登場するのは多くの場合、神や巨人です。

 それでは、いくつか巨人の登場する天地創造の神話をあげていきましょう。

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日本

 まずは、私たちの暮らす国、日本の神話からです。日本のなりたちは八世紀に『日本書紀』『古事記』で編纂されています。『日本書紀』では天地が分かれず渾沌として、水の上にうかぶ油、あるいは雲のようであった状態から神が生まれとされています。神は次々と産まれ、最後にイザナギ、イザナミが産まれます。イザナギとイザナミは夫婦となり、イザナミは日本のすべての島々と国土の元となるものを産みます。国土のすべてを産むくらいですから、それだけでも巨大であることが容易に想像できますね。

 また、イザナミは国土だけでなく多くの子供を産みましたが、その中の一人ククノチは、未だ低く垂れ籠めていた天空を両手で支えて立ち上がり、高くしたといわれていますから、ほとんど天まで届くほどの身長があったということになります。

 イザナギはイザナミが亡くなったあと、ひとりで国造りを続けます。イザナミが産んだ神々は各地に存在の痕跡を残し、また人間の祖先とされました。

 

沖縄

 イザナギとイザナミによる国生みの神話には、北海道や沖縄は含まれていません。沖縄には日本とは異なった天地創造神話が伝わっています。まず、天地の始まりに日の大神(太陽神)がいて、天から下界を見下ろすと、波間に漂う一本の縄のようなものがあったとされています。日の大神は女神アマミキヨ、男神シネリキヨを呼び、ここに国を造ることを命じました。アマミキヨとシネリキヨは土や草木を運んだり、漂う島々を串刺しにして固定したと言われています。

 しかし、この頃はまだ天と地はくっついて離れていなかったようです。そのため人々は蛙のように這って歩いていたそうです。これを哀れに思ったアーマンチューがどこからかやってきて、固い岩を足場にして両手で天を支えて立ち上がり、天を高く押し上げました。それから人間は立って歩けるようになったそうです。そのときのアーマンチューの足跡とされるものが、那覇のユーチサキや宜野座の山に現在でも残っていると言われています。アーマンチューは天から降りてきたとも唐(中国)から移住してきたとも言われていますが、はっきりしません。また、彼は渡名喜島の近くにある無人島を引き寄せようとしたときに足を踏み外し、海にはまって死んだという言い伝えもあります。

 みなさんはもうお気づきだと思いますが、アーマンチューが天を持ち上げた伝説は、日本神話の中のククノチの伝説とそっくりです。これ以外にもアジア各地やミクロネシアやポリネシア、メラネシアといった太平洋の島々にも類似した伝説が存在あるようです。

 

朝鮮

 次は日本のお隣、朝鮮の民話を紹介しましょう。

 世界のはじめ、天と地は父と母のように仲が良くて、今のように遠く離れてはいなかったそうです。そのため、動物や人間たちは狭くて、苦しくて、はあはあぜいぜいしていました。あるときのことです。雷が轟くと、途方もなくでかい大男がむくむくと立ち上がり「ウング、ウング、ウング」と唸りながら天を肩に担いで、どこまでも高くさしあげたのです。人間は大男の勇気を讃え、心から祝ったそうです。しかし、天は重かったのです。ひとつの肩で天を支えるのはとても苦しかったので、大男はもう一方の肩にどっこいしょと担ぎ直したのです。すると地上では地震や洪水で大騒ぎとなりました。そのうち大男も慣れてきて、地震は少なくなりました。世界の終わりには、天と地はふたたび近づいてくるそうです。そして、大男が天を支えていることを忘れなかった人々だけが生き残り、もういちど新しい世界をつくるということです。

 もうひとつ、朝鮮に伝わる天地創造の伝説を紹介しましょう。

 昔、地上は見渡すかぎりの泥の海だったそうです。ただ、天の上には天の王様とその一族が住んでいました。ある日お姫様が大切な指輪を落としてしまい、指輪は遥かに遠い地上の泥の海に沈んでしまいました。王様はひとりの大将に指輪探しを命じました。この大将は泥の海をかき回し、泥をつかんでは放り投げました。やがて、泥が積みあがった場所が固まり山になり、掘ったところは海、なでたところは平原、指でかいたところは川になったということですから、この大将も相当な大男であったことでしょう。

 

太平洋の島々

 太平洋に浮かぶ数々の島々と住民を造ったとされている創造神にマウイがいます。ハワイ諸島のマウイ島の名は彼に由来するものなのでしょう。彼は黄泉の国の女神ヒネ・ヌイ・テ・ポの娘タランガを母として生まれました。マウイは逞しい美青年だったそうです。この頃、この世は一面暗い海に覆われていましたが、マウイは毎日闇夜が続いていることに退屈して、大海原から天空を持ち上げ、そこに星々を貼りつけました。彼は次に太陽をロープで縛り付け、魔法のこん棒で殴りつけると、もっとゆっくり一日が過ぎるように言い付けて、承知させました。なんとも乱暴な話しです。マウイの傍若無人ぶりはまだまだ発揮されます。マウイは自分の血を餌にして巨大な魚を釣り上げます。マウイの兄弟たちが、その魚を横取りしようとしますが、魚が激しく暴れて彼らのカヌーを転覆させ、マウイ以外の兄弟は溺れ死にました。マウイにカヌーを貸さなかったために兄弟たちはひどい目にあったのです。その後魚は最初の陸地に姿を変えます。 

 これだけでもスケールの大きな話しですが、さらに呆れてしまうほどスケールの大きな話しが続きます。マウイは地上すべての生物を造り出したあと、永遠の生命を得ようとします。そのためには悪霊である祖母のヒネ・ヌイ・テ・ポを殺すしかなく、そのためには彼女の下半身から体内に入り込んで、口元まで一気に突き抜けるしかなかったというのです。一体、ヒネというのは、どんなに巨大だったというのでしょう! さて、マウイはヒネの体内にうまく忍び込みます。しかし、そこで様子を見ていた小鳥たちがあっはっは、と笑い始めてしまいます。これで目を覚ましたヒネは体内にいるマウイをひねりつぶしてしまったのです。あっはっは〜。

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ギリシア神話

 世界中で一番良く知られている神話は、ギリシア神話かもしれません。ギリシア神話で天地創造は、まず原初にカオス(混沌)が生じた、と始まります。そして次々とガイア(大地)、タルタロス(冥界)、エロス(愛)が生まれます。この四つは、それぞれ物質の状態や物事の概念のような言葉ですが、と同時に擬人化(?)された神です。さて、ガイアはまず自分と同じ大きさのウラノス(天)を産み、さらにガイアとウラノスの間には数多くの子供が産まれます。このカップル間に産まれた子供はキュクロプス族、ヘカトンケイル族、ティターン族の三種族に分類でき、いずれも巨人です。

 キュクロポスは英名ではサイクロプスと呼ばれます。彼らは一つ目の巨人族で、優れた鍛冶、造船、建築技術を持っていました。彼らはシシリア島に住んでいましたが、長い年月を経て、牧畜しかできない狂暴な種族になってしまいました。人間を好んで食べます。

 ヘカトンケイル族は100の腕と50の頭を持つ巨人でした。キュクロポス族とヘカトンケイル族は恐ろしい姿をしていたため、父であるウラノスによって冥界に閉じ込められてしまいます。

 ティターン族はもっとも人間に近い姿をした巨人で、彼らがギリシア神話最初の十二神として知られています。その末っ子にクロノスがいます。

 彼らの母・ガイアは、我が子供であるキュクロポス族とヘカトンケイル族を冥界に閉じ込めてしまったウラノスを苦しめようと、ティターン族の末っ子・クロノスに計略を授けます。クロノスはウラノスを待ち伏せし、大きな鎌でウラノスの男性自身を刈り取ります(ひゃあ!)。そのときほとばしり散った血を大地が受け止めます。そこから、エリニュスという女神と、きらめく鎧をつけ長い槍を持った巨人であるギガースが産まれました。上半身は毛深く、足は蛇のようにうねり、足の先はトカゲの頭になっていました。ギガースは英語のジャイアント(巨人)の語源となっています。 

 この他、ギリシア神話にはタロス、アルゴスといった巨人も登場します。

 タロスはダイダロスがクレタ島の番人としてミノス王のために制作した巨人です。アルゴスはゼウスの孫と言われていますが、体中に百もの目があります。

 さて、というわけで結局のところギリシア神話に登場する神々は、ほとんどが呆れるほどスケールの大きい巨人だということがわかります。彼らは人間そっちのけで神同士で延々と戦いを続けます。そのことを語り続けるとあまりにもキリがないので、このあたりまでにとどめておきましょう。彼らの運命と行く末を知りたい人はぜひギリシア神話の研究家になってください。 

 

北欧

 ヨーロッパの中でもスカンジナビア地方をはじめとする北欧は、古代からギリシア神話とは違う独自の創造神話を持っていて、ここでも巨人は重要な役割を果たします。

 北欧神話によると、大地も海も空も無かった大昔、世界の中心にギンヌンガという大きな空洞があり、厳しい寒気のため、空洞のふちに氷が盛り上がっていました。一方、南の方角には灼熱の世界があり、ここから吹き付ける熱風で滴り落ちた氷のしずくに生命が宿り原始の巨人、ユミールになったと言われています。

 このユミールのわきの下から男女の巨人が産まれ、巨人族が増えていきます。また両足の交わりからは六つ頭の巨人が産まれました。これらの巨人族をヨトゥン(霜の巨人)と呼びます。

 また、氷のしずくからは雄牛が産まれていて、この雄牛が氷の固まりを舐めているうちに、その中から神が現れます。この神は巨人族の娘と結婚します。神の孫にあたるオーディンら三人は力を合わせてユミールを倒します。ユミールの地は海になり、肉は大地に、骨は岩に、髪は木に、脳は雲に、頭蓋骨は天となります。

 さて、駆け足でいくつかの神話を紹介してきましたが、それぞれの神話はかなり割愛させてもらった部分がありますし、世界各地にはまだまだいくつもの巨人の登場する天地創造神話が存在することでしょう。しかし、それらの神話を全て網羅しようとするとこの『巨人大全』は、あまりにも膨れあがってしまい、いつまでも完結しないとも限りません。ここではひとまず先に進むことにしましょう。

 北欧神話のヨトゥンたちは、その後も生き長らえ、スウェーデンやフィンランドなどの民間伝承に多く登場することになります。このように次章で扱う題材は、神話時代より後の伝説や民話の時代に移行します。そこで世界を駆け巡る主人公たちは、神々ではなく人間です。果たしてそこで、巨人たちはどんな役割を担い、どんな活躍を見せてくれるのでしょうか! それでは次回のアップデイトをお楽しみに。

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