・僕たちはこうして出会いそれから…
電撃NINTENDO64 1998年6月号)
(飯田和敏)
振り袖姿の娘さんが行き交う昼下がりの新宿大通りに私はいた。知人のマンガ家の出版記念トークライブにゲスト出演するためだ。時間に少し遅れて新宿駅に到着した私は早足で会場へと向かっていた。自然の力を推進力として利用出来ればと思いコートの襟を垂直に立て、さらに景気をつけようと腰にぶら下げている風呂桶を叩いてみる。私はお風呂大好きっ子なのでいつでもどこでも銭湯に飛び込めるようお風呂セットを携帯しているのだ。いつもならカポポーンと抜けのいい音を鳴らすMy桶。それが今日に限ってはガボ〜ンと濁っていた。何かが起こる予感がした。
思いのほか会場は賑わっていた。到着は予定より15分ほど遅れてしまったが、幸いなことに進行は押し気味で僕の出番まではまだ若干時間があった。楽屋でお茶をすすりながら知人と談笑していると、サラサラと黒髪をなびかせながら一人の華奢な男が現れた。彼は私に近づき腹に響く低音ながらも軽快な声で「シバタでーす」と名乗った。シバタからはいい匂いがした。
「始めまして。僕もゲーム作ってます。あなたのゲームとても好きですが退屈ですね、ゲシゲシゲシ…」ゲシゲシというのはシバタ特有の笑い方。初対面の癖にずばりと言う奴だ。しかし、不思議とイヤミな感じはしなかった。
「僕、最近『エアーズアドベンチャー』というゲームを作りまして、それが思った通りいかなくて色々と考えてるんですが…」「あー、そうですか。お互いがんばりましょう」そんな会話を交わした。その時、突然会場が闇につつまれた。停電だ。
チャーンス!さっき見かけた色白のかわい子ちゃんを触っちゃえ!そんなよこしまな感情があったことを正直に告白しなければならない。私は残像からかわい子ちゃんの位置を予測し思い切って手を伸ばした。肉付きが良く柔らかい皮膚の感触が手に跳ね返る。「ウキャッ」思いのほか低い声。え?男?
電気がついた。私の手の先にはシバタの尻。幼い頃聞いた故郷を走る蒸気機関車の汽笛が耳の奥底で鳴っていた。
イベントが終わり「エアーズアドベンチャー」を買って家に帰り早速プレイした。粗削りで未完成だが、不思議な魅力を持ったゲームだと思った。作者が到達したかったゲーム像に共感出来たからだ。そこに同調出来るか出来ないかでこのゲームの見え方はガラリと変わってしまうだろう。私の場合、先じて作者に出会っていたことが幸いであった。おもしろいと感じるゲームが1本でも多い方が人生は楽しいではないか。
以上、「ふれあい編」でした。後半はガボちんによる「ひとつになる編」です。いってみよう!
(柴田賀盆)
「ついに告白しちゃった、スッとした…」ボクは体中の力がぬけちゃったみたいにヘナヘナと壁にもたれかかっていた。目にうっすらと幸せのナミダ。告白シーンにつきあってくれた親友も「ついにやったね、きっとうまくいくよ」と祝福してくれた。
それからアイスクリーム屋でささやかなお疲れ会。あの時のチョコミントはツンと爽やかな夏の入道雲の香りがしたなあ。外は冬だったけど幸せだった。
偶然の停電がなければ告白する勇気が出なかったかもしれない。ライブ会場での急な停電。今までオモチャ屋、本屋、CD屋、いろんなところで彼を待ち伏せていたけど、どこにいっても会えなかった。今回もダメかぁとガッカリした矢先、バンとブレーカーの落ちる音。パッと電気が真っ暗になって、ちょっとしたパニックだった。人ごみにもみくちゃになってて悲鳴をあげてたら、やさしい手がボクを助けてくれたんだ。明るいところで見てビックリ。あんなに待ち伏せしてても遭えなかったワビンちゃんがボクの手をつかんでたんだもの。もう舞い上がっちゃって、顔を真っ赤にして、胸のドキドキが聞こえちゃってたかも。それで思い切って告白したんです。「い、いっしょに仕事しましょう」って。
優しい横顔。一瞬の空白。ノーといわれると思った。でも、答えはイエス。
…少女漫画風、いかがでしたでしょうか。プロポーズ作戦は大成功。ところで時々オイラは自問するんです。なんで自分はものをつくってるのかって。答えは毎回同じではないんだけど、自分のつくったものでトモダチができればいいなぁってのがどうやら答えらしいのです。だから、自分の作ったものを認めてもらって、いっしょに物作りができるなんて、まるで告白がうまくいったみたいなものなんですよ。自分の作ったものが否定されるってのは、ふられちゃうのとそう大差ないですね。
「巨人のドシン」でまんまとコンビをくんだワビンガボン。オイラはプログラムのわかるゲーム作家、わびんちゃんはビジュアルのわかるゲーム作家。お互い、長所を出し合っていいゲーム作っていきたいですなぁ。
(飯田和敏)
いつもとは違った感じでお届けしました。嘘っぽいところもあるけど大体は実話です」。さて、問題は『巨人のドシン』。これが上手く行かなかったらせっかくの出会いも水の泡。ドロドロの愛憎劇が待っている。「お前が悪い!キーッ!」「いや、お前の方がもっと悪い!ムキーッ!」。そうならないようにがんばらなくちゃね。でも、これはこれでオモロイかも。明日はどっちだ?
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